令和5年度に精神疾患で労災認定された883件のうち、52件はカスハラが原因とされており、カスハラの被害は深刻な状況と言えます。この状況を受けて、令和7年6月11日、「労働施策総合推進法」の改正(カスハラ防止対策)が公布されました。施行期日は公布日から1年6月以内で政令で定める日となっています。まずは全体像を確認しておきましょう。
カスタマーハラスメント対策の義務化
● カスタマーハラスメントとは、以下の 3つの要素 をすべて満たすもの:
1.顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う、
2.社会通念上許容される範囲を超えた言動により、
3.労働者の就業環境を害すること
具体例1:「可愛いね、ずっと話していたい」「下の名前教えて」等セクハラにあたる言葉をかける、「殺すぞ」の脅迫、「死ね」「馬鹿野郎」の暴言を吐く
具体例2:説明を行っても「納得ができない」と対応している姿を無断で動画撮影した
具体例3:長時間にわたり何度も無理な要求を繰り返し、時には暴言を吐いた
具体例4:20年前に購入した商品が故障したと執拗に架電し、無償修理を長時間にわたり要求した
具体例5:商品が不良品だったため修理受付をし、従業員が店舗で謝罪。その後自宅での謝罪を長時間強要され、4日間深夜まで続いた
*雇用分野における女性活躍推進に関する検討会資料(令和6年6月21日)より
事業主が講ずべき具体的な措置とは
1.事業主の方針等の明確化及び周知・啓発
2.相談体制の整備・周知
3.発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置
日本では「お客様は神様」という価値観が根強く、カスハラが発生しやすい風土があると言われています。欧米では人権意識が高く、契約にないサービスは提供しないという考え方が一般的です。職場におけるあらゆるハラスメント防止の法的義務は企業を対象としており、カスハラ発生時には企業としての適切な対応・抑止策を事前に整えておく必要があります。